貧富の差が拡大するとどうなるのか?『お金の流れでわかる世界の歴史』

スポンサーリンク

貧富の差、所得格差が先進国で拡大していることが話題になっていますよね。歴史は繰り返されると言います。お金の流れをキーに世界の歴史を見ていく『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力・・・・・・はこう「動いた」』(著:大村大次郎氏)という本が、この問題を考える上で非常に参考になりました。

・・・・・・点が多いよ!と最初は思いましたが、読了後の感想としては、これ位必要だよね。その位タメが効いてました。非常に面白い。

本サイトでは投資の話を主に扱っています。投資をしている方で未来が知りたいと思わない人は少数派でしょう。未来を知ることは出来ませんが、未来を予想するには過去を知ることが一つの手がかりになるのではないでしょうか。

ピケティの『21世紀の資本』から、2016年アメリカ合衆国大統領選挙におけるサンダースの躍進に至り、私は貧富の差の拡大がもたらすものの先には何があるのか考え始めました。この問題を理解するために手始めに読んだ『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力・・・・・・はこう「動いた」』(著:大村大次郎氏)をご紹介しつつ、少しづつでもこの問題を考えていきたいと思います。

スポンサーリンク

先進国で進む貧富の差、所得格差の拡大

ピケティの『21世紀の資本』

貧富の差の拡大が話題となったきっかけの一つは、フランスの経済学者であるトマ・ピケティの著書『21世紀の資本』。

2013年にフランス語で発刊され、日本をはじめ世界各国で大ヒットしたこの本。Wikipediaでは下記のように要約されています。

参照21世紀の資本 – Wikipedia

長期的にみると、資本収益率(r)は経済成長率(g)よりも大きい。その結果、富の集中が起こるため、資本から得られる収益率が経済成長率を上回れば上回るほど、それだけ富は資本家へ蓄積される。そして、富が公平に分配されないことによって、貧困が社会や経済の不安定となるということを主題としている。この格差を是正するために、累進課税の富裕税を、それも世界的に導入することを提案している。

経済成長率は、言いかえれば労働者の賃金上昇率を意味します。賃金の上昇率が資産の成長率に劣るのであれば、この差は徐々に拡大していきます。

参照労働者の賃金はゼロ成長。『21世紀の資本』が実証 – エキサイトニュース(2/3)

例えば、投資信託やファンドなどの、資産を持っていれば年4%程度の収益を得られるということ。一方、経済成長率が1.5%とすると、所得も全体の平均で1.5%しか伸びない。(獨協大学経済学部の本田浩邦教授)

さらに、次々と起こる技術革新によって労働者の仕事は減少傾向。2016年現在も急速に進む人工知能・ロボット化の波は、この傾向に拍車をかけるでしょう。

その時何が起こるか?私は高学歴にも関わらず職に就けない若者が増加し、社会の不安要素が拡大していくことになると予想しています。その結果、資本家サイドにもネガティブな影響をもたらす可能性があるでしょう。高学歴で優秀な若者の反撃で、場合によっては社会構造の転換が起きるかもしれないからです。

ピケティの提案は「累進課税の富裕税を世界的に導入」して政治的に解決を図る、ということでしたが、私が所得格差問題が極めて深刻な問題になってきていると初めて認識したのも、政治の話題、2016年アメリカ合衆国大統領選挙におけるサンダースの躍進によってでした。

2016年アメリカ合衆国大統領選挙におけるサンダースの躍進

2016年アメリカ合衆国大統領選挙で若者の支持を受けサンダースが躍進したことに、私は衝撃を受けました。お恥ずかしい話ではありますが、正直なところ、アメリカの若者の不満がそこまで高まっているとは思っていませんでした。

ハーバード大学の実施した最近の世論調査において、アメリカ合衆国の若者の過半数が資本主義を支持しないと回答したそうです。

参照アメリカ人の若者、過半数が資本主義を支持せず | BUZZAP!(バザップ!)

ハーバード大学が18歳から29歳の若者に対して行ったところによると、51%が資本主義を支持しないと回答。指示すると回答した42%を9ポイントも上回りました。

1991年のソ連崩壊で共産主義では国がもたないことがはっきりし、資本主義に勝るものはないと思われたここ20数年。四半世紀が経ち、資本主義、特に新自由主義経済に対する懐疑が首をもたげ始めています。

貧富の差の拡大によって、この懐疑が大きく育った結果、何が起こるのか?そのヒントを得るために歴史をひも解くというのも一つの手です。という訳で『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力・・・・・・はこう「動いた」』を紹介していきたいと思います。

お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力・・・・・・はこう「動いた」

元国税調査官、その独自の視点

テーマは冒頭に書かれていますが、とてもシンプル。

参照お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力・・・・・・はこう「動いた」|p5

本書は、世界史をお金の流れで読み解く、ということをテーマにしている。

この本のユニークな点としては、著者が大学等の歴史研究者ではない、ということが挙げられます。

著者の大村大次郎氏は元国税調査官。国税局において10年の間、主に法人税を担当する調査官として勤務されていたとのこと。歴史だけやってきた歴史家の視点とはまた別の視点を持っています。お金の流れの歴史を見てこそ、政治、戦争だけを追っていてもわからない「歴史の本質」がわかるのだと。

参照お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力・・・・・・はこう「動いた」|p12、p13

歴史というのは、政治、戦争などを中心に語られがちだ。「誰が政権を握り、誰が戦争で勝利したのか」という具合に。だが、本当に歴史を動かしているのは、政治や戦争ではない。お金、経済なのである。お金をうまく集め、適正に分配できるものが政治力を持つ、そして、戦争に勝つ者は、必ず経済の裏付けがある。

だからこそ、お金の流れで歴史を見ていくと、これまでとはまったく違う、歴史の本質が見えてくるものなのだ。

古代エジプトの盛衰を決めたもの

この本は古代エジプトの話から始まります。著者いわく、古代エジプトは古今東西の国家盛衰プロセスの典型例。

参照お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力・・・・・・はこう「動いた」|p32、p34

古代エジプトというのは、財政の面から見ると、古今東西の国家盛衰プロセスの典型的な例でもある。逆にいえば、国家の盛衰というのは、古代から現代までだいたい似たような経緯をたどるということである。

古今東西、国家を維持していくためには、「徴税システムの整備」と「国民生活の安定」が、絶対条件なのである。

歴史を知る面白さの一つとして、歴史からパターンを学ぶということがあります。まぁ仕事でも何でもそうなんだと思いますが、学習を積み重ねることで、そこに一定のパターンが見えてくることがありませんか?著者が見出したパターン、それは国の栄枯盛衰に見られる一定のパターンです。

参照お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力・・・・・・はこう「動いた」|p44

国の栄枯盛衰には一定のパターンがある。徴税がうまくいっている間は富み栄えるが、やがて役人たちが腐敗していくと国家財政が傾く。それを立て直すために重税を課し、領民の不満が渦巻くようになる。そして国内に生まれた対抗勢力や、外国からの侵略者によって、その国の政権(王)は滅んでいくのだ。エジプトのファラオたちも、まさにそのパターンの「王道」を歩むことになる。

これ以降、この記事に書くことは私が一番面白かった部分なので、もしこれから読もうと思っている方には、ある意味ネタバレになってしまいますので、ご注意を。

不気味な過去との類似

過去の出来事を記憶するだけでは、歴史の面白さを十分味わえないのではないでしょうか。やはり、現在の出来事と似た点やパターンを探していく、ということこそ私にとっては歴史を学ぶ醍醐味。本書においてのそれは、ソ連崩壊の影響のところに発揮されていたと思います。

著者いわく、ソ連崩壊の影響によって、現在まで続く投資ブームが起き、マネーゲームが加速、貧富の差が拡大したと。そして、この状態はフランス革命前のフランス社会に似ていると警告します。

参照お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力・・・・・・はこう「動いた」|p479~p483

1990年代から始まった世界のマネーゲームブームは、実はソ連の崩壊が大きく影響している。ソ連や共産主義陣営が健在だったとき、西側陣営は、資本主義の暴走にそれなりに気を配っていた。

ソ連の崩壊により、西側陣営の自重が薄れたのだ。「資本主義こそが正しい経済思想だ」 とばかりに、企業や投資家に限りなく自由を与え、便宜を図る政策を採り始めたのだ。

ソ連が崩壊した後は、相続税は相次いで縮小、廃止され、所得税の累進性も弱められた。その結果、90年代後半から現在まで、世界中で投資ブームが起き、マネーゲームが加速していったのである。

その結果、世界的に貧富の格差が拡大している。国際支援団体オックスファムの発表によると、2015年現在、世界の富の半分は、1%の富裕層が握っているという。この1%の富裕層のシェアは、2009年時点では44%だったので、年々拡大しているのだ。この状態は、フランス革命前のフランス社会に似ているといえる。

このまま世界のマネーゲーム化、貧富の差の拡大が続けば、世界規模でのフランス革命が起きないとも限らない。

フランス革命当時のフランスでは、3%の貴族が、90%の富を独占していたとも。これが今の貧富の格差が拡大している状況と似ていると。つまり、今がフランス革命前夜かもしれない、と言う訳です。

参照お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力・・・・・・はこう「動いた」|p211、p213

「絶対王政」という言葉があるように、フランスは、ルイ14世の時代には強固な王政国家でもあった。が、フランス革命によって、劇的に王政が倒される。

当時のフランスでは3%の貴族が、90%の富を独占していたともいわれる。 また当時のフランスでも、徴税請負人による不正が後を絶たなかった。

そして著者は最後にもう一つ爆弾を落としていきます。

著者が本書最後に書いた警句

著者は次のような警句を残し、この本を締めます。

参照お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力・・・・・・はこう「動いた」|p484~p487

昨今、先進諸国の財政には、ある共通の問題が起きている。それは「タックスヘイブン」と呼ばれるものである。

そして、このタックスヘイブンがあるために、先進諸国は富裕層や大企業にあまり税をかけられなくなった。その結果、中間層以下に厳しい課税を行うようになっている。──この話に、どこか聞き覚えがないだろうか?そう、本文で幾度も紹介してきた「国が崩壊するときにありがちなパターン」である。

現在、タックスヘイブンなどにより、世界的規模で特権階級が生じている。ということは、世界的な規模での「国家崩壊」が近づいているのかもしれない。お金の流れで世界の歴史を追っていくという壮大なテーマの本の末尾に、このような警句を差し込まなくてはならないのは、いささか残念ではある。

著者が歴史研究から見出した国の栄枯盛衰に見られる一定のパターン。それがまさに今起こっているのではないか?この本が物凄く怖いのは、これが現在進行形であるところです。最後に本書で読んだホラーな話2つをご紹介して、この記事を締めたいと思います。

本書で読んだホラーな話、その1

まず1つ目。それはナチスの躍進です。

参照お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力・・・・・・はこう「動いた」|p381、p382

ヒトラー率いるナチスは、再軍備、ベルサイユ条約の破棄など、強硬な政治目標を掲げていた。ナチスは結党当初、その過激さから財界や保守派から敬遠されたが、ドイツ経済の悪化とともに中産階級以下から圧倒的な支持を集めるようになる。やがて、財界や保守派も、共産党の台頭を防ぐ意味でヒトラーを支持するようになり、1933年、ついに政権の座に就いたのだ。

2016年アメリカ合衆国大統領選挙の光景とダブりませんか?貧富の差の拡大によって若者の支持を獲得した自称・民主社会主義者サンダース。弱いアメリカに辟易した国民の心をとらえた対外強硬派トランプ。

すっかり内向きになってしまった世界最大の経済大国アメリカ。その動向が世界へ影響を与えないことは考えられませんよね。ナチスドイツをいつまで笑っていられるのでしょうか?

本書で読んだホラーな話、その2

そして2つ目。それはフランス革命の引き金が何だったかという話。

フランス革命のきっかけとして著者が挙げていたネッケルの罷免。ネッケルの行ったこと、それは今まで秘密に閉ざされてた国家財政の歳入歳出の公開。

参照お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力・・・・・・はこう「動いた」|p215~p221

ルイ16世は、国家財政を立て直すために、1777年に、スイスの銀行家ジャック・ネッケルを財務総監に抜擢する。

このジャック・ネッケルこそが、フランス革命のキーパーソンとなるのだ。

ネッケルは、国家財政立て直しのために、徴税請負人制度の改革に乗り出す。

徴税請負人制度というのは、「裕福な者が徴税特権を得て、さらに裕福になり、民衆を苦しめる」という致命的な悪循環を招いていたのだ。

これには、フランスの貴族や特権階級の者たちが猛反発した。徴税請負人制度は、彼らの既得権益でもあったからだ。彼らは、「パンフレット」を使って、ネッケルを執拗に攻撃した。

それに対して、ネッケルは強力な対抗策を採る。フランスの国家の歳入と歳出の内容を市民に公表したのである。

この会計公表により、ネッケルは、フランス市民の強い支持を得ることになる。

ネッケルの会計公表により、強い批判を受けることになったルイ16世は、1781年に、ネッケルを一旦罷免する。しかし、フランス市民の圧倒的な後押しを受け、ネッケルは7年後の1788年に財務総監に復職する。その翌年の1789年、ルイ16世が再びネッケルを罷免してしまうと、パリの市民たちが激怒し、蜂起する。

こうしてフランス革命が起こったのである。

この話は、IFRS(国際会計基準)の設定主体であるIASB(国際会計基準審議会)の議長、ハンス・フーガーホースト氏が講演でしたこともあるようですね。公認会計士の中田清穂氏が紹介されています。

参照フランス革命のきっかけを作った「情報開示」(2015.6.29 IASB議長の講演内容から)|メールマガジン|連結会計、連結決算のソリューションならSTRAVIS│電通国際情報サービス(ISID)

2015年6月29日、IASB議長のハンス・フーガーホースト議長は、フランスのパリで開催されたIFRS カンファランスのあいさつで、フランスと会計に係る話の一つとして、以下のような話をしました。

1777 年 国王ルイ16世は、スイス人の銀行家ジャック・ネッケルを財務大臣に任命。
1781 年 ネッケル財務大臣は、国家財政の財務報告書を公表。
     1年で100,000 部以上が販売され、当時としては膨大な部数だった。

ネッケル財務大臣が国家財政の財務報告書を公表した目的は、
(1) 国家財政の「透明性」を高めて、
(2) フランス国家の国際的な「信用度」を向上させ、
(3) 徴税システムを改革して国の「財源を強化する」こと
でした。

この財務報告書で、
A. 王室の維持コストが軍事支出の半分を上回り、
B. 王室の維持コストが道路や橋に対する支出のほぼ 7 倍もあったことが明らかになりました。

そして、彼の目的とは裏腹に、絶対王政の浪費ぶりを暴露することになり、フランス革命のきっかけの 1 つとなったという話です。

現在「パナマ文書」による告発によってタックスヘイブンの問題がクローズアップされている最中で、この話題が気になっている方も多くいらっしゃると思います。

「パナマ文書」も今までベールに包まれていたタックスヘイブンの中身の告発ですよね?つまり革命のきっかけとなった出来事に近いことが今起きているかもしれないのです。

本書の第1刷は2015年12月。「パナマ文書」は2016年4月。これからの歴史はどう刻まれていくのでしょうか?